「まぁ、ここまではだいたいええと思う、あとは心が届くかやな」
明日は横浜アリーナで行われる、ベリキューの合同ライブだ。
リハーサルを見に来たつんく♂は、14人を前にしてなにやら持論を語り始めた。
キャプテンである清水佐紀は、ひどく真面目な顔をして、聞き入っている。
「つんく♂とか久々に見た」という表情のマイマイとは対照的であった。
(心を届かせる…か。難しいなぁ、ダンスではどうやれば表現できるんだろう)
午後の練習まで食事休憩となったが、佐紀はさっさと食べ終わると、フロアに出て
ステップの練習を開始する熱心さを示した。パートナーの早貴が、デザートのみかんを
剥きながらトコトコと近寄って来る。
「佐紀ちゃーん、まだ動かないほうがいいよぉ、お腹いっぱいなのに」
「いいよ、早貴は休んでて。ちょっと、まだソロで踊るところ、極めたいんだ」
夏DOKIリップスティックで、舞美のバックダンサーを務める二人。
どちらも名前が「さき」である。佐紀としてはキュート特有な内輪的呼称である
「なっきぃ」を使うほど親しくも無いし、早貴側からは「キャプテン」と呼べる
立場に無い。二人だけで会話する分には支障が無いので、自分の名前を呼び合う
ような形になってしまったわけであった。
ちなみにエッグメンバーの森咲樹、小川紗季もこのライブに参加する。
早貴としてはその二人も加えて「さきカルテット」でやれば面白いのにな、と考えて
いたのだが、佐紀の「でもまだ(うちらに)ついて来れないんじゃない?」という
発言を受けて納得したので、単なる雑談以上の話題にはならなかった。
このように、ダンスに関しては結構自信家な二人なのである。
「でも佐紀ちゃんはすごいね、ビシッ、バシッって鋭く動くよね」
「そ、そうかな?…でもなんだろう、心を伝えるとか、そういうあいまいなコトは
わかんないんだよねぇ」
「あー…、あたしは最近なんとなくだけど、ほんとなんとなく…愛ってモノが
わかった気がする、フフっ」
「うん、なっきぃの動きには愛があるね、ファンに捧げるあふれんばかりの愛が」
いつのまにかウーロン茶片手に、栞菜がその場に混じっていた。
「愛というより…エロス…そう、自分のすべてをさらけ出し、心の奥底まで裸にならん
ばかりの情熱的な絶頂!それが彼女を淫獣ならしめたの!すげえ!」
「ちょ、ちょっと栞菜、昼から飛ばし過ぎ…」
ポカンと栞菜を見つめる佐紀。以前から「ちょっとおかしな子」だと思っていたが
こうした練習で、毎日のように会うようになってからは「本当におかしな子」に
その評価をすでに変えてはいたが。
「え、じゃあ…あたしのダンスは愛がないってこと?」
ケンカ調にならないように注意しながら、佐紀は聞き返した。
「ぶっちゃけるとそういうことなのかな、あ、怒らないで。別にファンをおろそかに
しているという意味じゃなくて、アイドル的にはすごくいいダンスだと思うの。
でもこの淫獣はもっと…」
「栞菜!いいから、いいから!あっち行って!」
早貴に背中を押されてズルズルとフロアを滑る栞菜。佐紀がその肩を掴んだ。
「…いいから続けてよ。早貴…なかさきちゃんには何かすごい魅力があるのね?」
「ククク…その目を見たものは腰が抜けると言いますぜ旦那」
「ちーがーうー!ないから!ないから!」
顔を赤面させながら、二人の間に割って入る早貴だった。
その後もリハーサルは続き、滞りなく終了する。終始にわたって早貴を観察し続ける
キャプテンであったが、特に異様な能力の片鱗は見えず、ただの元ブースカだった。
楽屋で着替える面々。佐紀は、引き続き、早貴にぴったりと張り付いていた。
(何か秘密があるはず…あたしがそれを身に着ければきっとベリーズ工房のエースに
なれるわ!もうみやには大きなアゴ…じゃなくて顔をさせない!)
「おんや〜?佐紀ちゃんなにやってんの?なっきぃガン見して…」
着替えを終わった舞美が尋ねる。無言の佐紀に代わって、早貴が答えた(ややこしい)。
「栞菜が変なこと言うから、佐紀ちゃんがあたしの秘密を暴くとかなんとか…」
「ああ…なるほど。秘密というより…秘部だよね」
「もー、舞美ちゃんまでー!」
近くのロッカーでバックをまさぐっていた栞菜が、ニヤケながら手を後ろに組み、二人に
寄って来た。明らかに何かを背後で隠している。
「佐紀ちゃん、なっきぃのことを知りたければ、今夜一晩でも、いっしょに泊まって
みればいいんじゃない?息が合った二人なら、明日のダンスもすごく良くなると
思うんだけど…」
「あーいいね、それ!なっきぃ、そうしなよ、佐紀ちゃんもさ!」
「むむむ…いいかも、あまりこれまで交流も無かったし…」
「ええっ、勝手にそんなぁ…、それじゃぁ…あ、あ…」
今夜のオナニーが思いっきりできない!とは言えないシャイな早貴。
いや普通の神経なら言わないけどね。
ガチャン!
早貴の右手で何か金属音がした。彼女が顔を下に向けると、その手首には金属製の
ワッカがついている。そして、その片方の輪を栞菜が持っている。
「はいっ、しみさきちゃん!左手出して!」
「えっ!え、え、えっ、はいっ!」
ガチャン!
もう一方の輪が、佐紀の左手首にはまる。ジャラ…と鎖の音が響いた。
どう見ても手錠です。ありがとうございました。
「…っ!ちょちょちょっ!栞菜、何やってんの?これ、何!?」
「手錠…」
「知ってるわッ!」
スパーンとスナップを利かせた舞美チョップのツッコミが、栞菜の頭頂部にヒット。
動揺した早貴が動いたのに引っ張られて、佐紀がよろめく。
「何、あれ?手錠?緊縛プレイ?」
「あの二人、そういう関係だったの?マジ予想外って言うか、萌えない〜」
「そのままライブ出たら、すごい受けるんじゃない?」
まだ残っていた他のメンバーから、無責任なささやきが起こる。佐紀はキャプテン
としての威厳を保とうと、咳払いを一つして、冷静に栞菜に向き直った。
「いや栞菜、これはやりすぎだよ。ここまでしなくても、早貴のことを知ることは
できると思う。ホラ、外してくれる?」
栞菜は両手を「オーノー!」の形にして、ニヤつきながら首を振った。いやな予感が
胸いっぱいに広がる、早貴。
「カギは舞美ちゃんが持ってる、でも明日にならないと無理なんだなぁ」
「……えっ?あたし?知らないよ、そんなの持ってないってば!」
この異常な状況をわりと他人事として見ていた舞美だったが、思いもよらず自分に
振られ慌てて否定した。栞菜は、舞美に歩み寄ると、手のひらでそのTシャツのお腹を
撫でる。少し汗ばんだその部分は、割れた腹筋で堅い。
「多分…今この辺に、カギが、ある」
ざわ…
ざわ…
室温が3℃ほど下がったかのごとく、静まりかえる室内。
「あ、あたしのお腹の中…?うそっ、うそっ、そんなの食べてないよ!」
「ううん、お弁当に入れておいたんだけど、いやー普通気づくよねぇ?」
お前が言うなぁぁぁっ!
3人に同時に蹴られた栞菜は、1回転して部屋の隅に激突したのであった…。
■
「下剤はやめよう。明日ライブだし、体調にすこしでも異変があるとまずいわ…」
やむなくカギ回収は舞美の自然分娩を待つこととした。本日昼過ぎに通便があった
彼女の日ごろの生活リズムだと、おそらくブツの排出は翌日の朝か午前中になる。
…ということは明日、舞美のうんこを…メンバーたちは色々考えるところはあったが
今日はひとまず帰宅することにした。
「でも、うちら…これじゃ家族になんて思われるか…説明もめんどくさいし」
確かに手錠で繋がれる等、通常ありえない光景である。
栞菜の提案により、今夜は会場から近い有原家に泊まることになった。
「大丈夫、うちの親は結構気にしないタイプだから」
迎えに来た有原家のクルマに乗る3人。助手席の栞菜が母親に「これは番組の企画
だからね」などと二言三言説明する。「それは大変ねえ」とあっさり納得する栞菜母。
(カメラが無いとか、ライブの前日にそんなことするわけないだろ!とか色々
ツッコミどころ満載なんですけど!)
早貴は心の中でツッコミを入れた。ふと右側に座っている佐紀を見る。
すでにスヤスヤと寝息を立てていた。無理もない。ダンス練習、ひどく頑張って
いたから。
技術的なことを追求するあまり、少し焦っているんじゃないか、という気がする。
「キャプテン」と呼ばれていても、決してベリーズ内での位置は高くない佐紀。
ボーカルパートも少なく、他ユニットでの活動実績も多くはなかった彼女。
「ハイキング」での抜擢に喜び勇んで、それが少し空回りしているんじゃないか。
(…なんて、あたしなんかが考えるなよな、ってところよね…)
クルマが路地に入り、駐車場で停止した。二人は初めての有原家である。
お互いに左右のドアから降りようとして、ジャラッ!と手錠に引っ張られるお約束を
かましつつ、玄関ホールへ入った。スリッパを出す栞菜。
「あたしの部屋は2階よ」
階段を上がると、奥の扉に名前の入ったプレートがかかっている。扉の中には
奇怪なSMグッズや、半裸全裸の女性のポスターや、舞美ちゃん型ダッチワイフ
などで満ちているのではないか、と思った佐紀だったが、ごく普通の中学生の
私室に過ぎなかった。
(手錠とか、あーいうモノはどこに隠してあるんだろうか?)
キョロキョロと見回す佐紀。本棚が意外と立派で、背表紙から読書家なのが伺える。
「何探してんの、佐紀ちゃん?トイレなら、一階だけど」
そりゃあ部屋の中にはないだろ、と思いつつ、そういえば結構溜まっているな…と
尿意を再確認した佐紀。チラリと傍らのパートナーを見る。
「あ、そうだね…、あたしもトイレ行きたい」
「じゃぁ、栞菜、トイレ借りるよ」
ベッドに寝転んだ栞菜は、疲労のためか眠そうに足を振って返事をした。
二人は繋がったまま階段を下りた。Uターンをしてそれらしい扉を開けると、
中は便器がドア方向に向いているタイプの洋式トイレだった。一人がしている間、
もう一人が外で待っている…という方法を考えていたのであったが、無駄に縦長
なので、鎖が届かない。結局は、一緒に中に入るしかなさそうだ。
女の子同士だったのは不幸中の幸いであろう。
便器を前にして、狭い空間で顔を突き合わせる二人。佐紀が口を開いた。
「えっと…じゃあ、あたしから、させて貰うね…」
手錠をジャラジャラさせながら、ズボンとパンツを下ろし、腰掛ける。
程なくして、プシュゥゥゥ…!と噴出した小便がジャボジャボと水面に音を立て
はじめた。溜まっていたのでかなりの勢い、そして音量である。
(あっ!いけない、音消し忘れてた…やだーもー…)
自宅トイレでは水を流しながら排尿していない。それはそれでエコなことだが
習慣でここでも、他人が居るというのに、盛大な排泄音をとどろかせてしまった。
とはいえ、今から水を流し始めるのは逆に…
「あたしは今とても恥ずかしいんですぅ…、音を聞かないでくださいぃ…」
と声高に宣言しているようなもの。それはできない。ジャボジャボと音を立てて
ヒップを伝わるオシッコの温かさを恨めしく思いながら、うつむいて排泄をする
少女。そしてさらなる試練。
(うっ…、やばい、ウンチしたい…いきなり催してきたッ…)
さ、さすがに恥ずかしい…。というか、早貴、なんでこっち向いてんの?普通気を
利かせて、扉の方向を見てたりするでしょこういう場合…いやこういう状態がすでに
普通じゃないけどさぁ…。熊井ちゃんとか、その、異常なエッチで、漏らしたこととか
あるけど、そういうのとはまた違うし!あれはテンション上がってるから、やっちゃった
ことだし…で、で、で、どうする?どうする?を脳内リピートする佐紀。
「ねえ…、佐紀ちゃん、もうオシッコ終った?」
「…あっ、うん、もういいよ…」(ああああ、あたしの馬鹿っ!)
出発進行しかけていたブツを運休にして、肛門をぐっと閉めた。
なるだけクールに、あたしは生理現象を済ませただけですよ?という顔で、ペーパーを
取って、濡れた陰部を拭く。立ち上がり、洗浄コックをひねろうとした佐紀。
「いいよ佐紀ちゃん、あたしもするんだから、水がもったいないよ」
えぇー、オシッコで黄色くなった水を見られるのがいやだったのにぃ…。
そんなエコな観点で冷静に…って、あんた!その下着!何!?
ズボンを下ろした早貴は、短パンを履いていた。そのさらに中。下着の形はしている
けど、なにか違う物体。早貴はそれを脱がずに便座にまたがる。
うつむいたまま、小声で答える少女。
「…驚いた?佐紀ちゃん…これ『ていそうたい』って言うんだって。…エッチができない
ようになってるの…恥ずかしいけど、どうせバレるんだから、見せちゃった…」
「ていそ…ええっ、なんでそんなの付けてんの?あっ、いや、別に言いたくなければ
その…人の自由だし…うん…」
口ごもる佐紀。栞菜が言ってたこと。淫獣。エロス。そんな単語。
そしてエッチ?……オナニーとかセックスってこと?
いろんなことが頭の中で絡まって、もやもやしている。
顔を赤くした少女が、口を尖らせた。
ジャッ!プシャ!シャァァァァァ!
早貴の尿道口から噴出した小便は、貞操帯に一度当たって、下部の穴から漏れ出す
構造になっている。外陰部から肛門にかけて、びしょびしょに濡らしてしまうのだ。
ビトビトビト…、しずくが佐紀の使用済みペーパーに落ちて、鈍い音を立て続けた。
無意識のうちにその光景を、中腰で凝視している佐紀。
(やだ…なんでそんなに見るの?ヘンタイな、コレ、付けてるから?あたしのオシッコの
ツンとした匂い…ムンムン広がってる…、恥ずかしい…)
膀胱が空になっても、器具のスキマに残った尿が、ポタポタと垂れ続ける。
そして明らかに、尿とは違う体液が、陰部に滲み出しているのがわかる。だが、それの
発生源に触れることはできない。どうにもならないもどかしさが早貴を襲った。
悶えるように、背筋を伸ばして下腹部に力を入れる。肛門が開いた。
「ん、んん…あっ、佐紀ちゃん…ウンチでちゃう…」
えっ?と佐紀はつい顔をさらに近づけて、その股間を観察した。なるほど、よく見ると
お尻の穴の部分は露出している。すぐさま、肛門からニョッ…と黒茶色の塊が飛び出し
ズルズルと水面に落下していく。さすがに獣の生々しくキツイ臭いが佐紀の鼻を襲う。
ボチャ…と15センチほどの一本糞が、便器内の溜まり水に収まった。
(あたしのオシッコと、早貴のオシッコとウンコが混ざってる…なんか変…)
佐紀は立ち上がると、空間に充満し始めた臭気を嫌い、便器のコックをひねった。
クサイって言ってるようなものだが、正直その通りなので、仕方がない。
にしても、早貴がウンコするなら、あたしもしておけば良かった…。
「ごめん…ごめんね、佐紀ちゃん、臭かったねぇ、恥ずかしいぃぃ…」
「えっ、いや別にそんな、ほら、あたし右手空いているし…」
そう言いながら、早貴の顔を見て、ギョッとする。
上目遣いで、目に涙を溜めて謝る少女。息も荒げに、頬を赤らめて。
その瞳の色。
涙の色。
佐紀はそこに、人ならざるものの片鱗を、確かに感じたのである。
(つづく)
- 2008/04/24(木) 01:27:55|
- 41話〜|
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